ワールドトリガー23巻p196-p197の2ページだけで半年はおかずに困らない

ワールドトリガーは毎回情報量ギチギチ、読むたびに再発見がある恐ろしい作品で、毎巻出るたびに一巻から読み直してもなお味の染み出るスルメを超えたスルメ作品なのだが、今月の新刊(23巻)は過去最高のスルメだった。

 

前巻で「B級ランク戦編」が終わり、23巻から新章が始まるわけだが、この「B級ランク戦」をスポーツ漫画で例えると「地区予選編」みたいなもので、ここから「全国大会編」が始まるかと私は思っていた。しかし、流石は常に読者を唸らせ続けるワールドトリガー、例の如く想像を裏切り、期待を超えてきた。

 

「B級ランク戦」では、13のチームが登場し50人近いキャラクターが団体戦で戦う。それぞれのチームに特色と固有の戦術があり、どのキャラクターも個性豊かなので、「あのチームとこのチームが戦ったらどうなるのか」「アイツとコイツが組んだらどうなるのか」など、番外の妄想をしているだけで無限に時間が潰せる。このようにキャラクターの行動・言動を想像でき、読者の脳内で妄想が破綻なく行えるぐらい、登場人物の設定と性格が作中で練りこまれているのがワールドトリガーの美点であり、特徴だ。だからこそ、読み直すたびにキャラクターへの理解が深まり、スルメのようにしゃぶり続けることができる。

 

 で、本題の新章なのだが、新章の幕開けとともに「B級ランク戦編」で登場した50近いキャラクターが集められ、「選抜試験」の実施が告知される。その試験内容は以下の通りだ。

今回の選抜試験は部隊の隊員を入れ替え、つまり『シャッフル』して行う 

『シャッフル』して行う…?それってつまりよ、「アイツとコイツが組んだらどうなるのか」っていう妄想の具現化では?

もうこの時点で私のテンションは有頂天であり、「まさしく夢にまでみたドリームマッチが本編で!?二次創作じゃない!?」と為す術もなくはしゃぐしかない。ソシャゲやファンゲームでよく見る「ファンサービスの番外編」が本編で行われるとかそりゃもうお祭りでしょ。スポーツ漫画とかで誰もが絶対に一度は考えたことのある「俺の考えた最強チーム」が本編で?実質テニプリの『最強チームを結成せよ!』だぜ?ヤバくないか?

しかも、ただシャッフルするだけでなく、任命された隊長が隊員を順番に指名する『ドラフト』形式でチームが構成されていくのが、これまた面白い。

「何故この隊長がここでこのキャラクターを指名したのか・しなかったのか」などは明言されず、読者の想像で補うしかないのだが、むしろそれがいい。前述した通り、ワールドトリガーは、キャラクターの設定・性格に対する練りこみは尋常ではないので、「なぜこんなドラフト結果になったのか」は余裕で想像でき、キャラクターが選択した理由も推察できる。

そのドラフト結果、つまりは最終的なチーム分けが描かれたのが「p196-p197」なのである。マジでこの名前の羅列だけで半年は妄想できる。無限に飯が食える。実際、天一のラーメン食いながら23巻読んでた。

 

しかも、ワールドトリガーの凄いところは、この露骨なファンサービス、或いはテコ入れと思われかねないドラフト式チームシャッフルに明確な理由が存在する。

この選抜試験、戦死者が出かねないガチの「戦場」に行くメンバーを決める試験なのだが、当然「戦場」では冷静に状況を見極め、戦闘力の強弱と能力で人間を采配する力が求められる。

ドラフトの最中に、最後まで選ばれずに残ってしまったキャラクターが「この売れ残っていく感じ。公開処刑じゃないですか」と言っているが、まさにそうである。

能力が低い、或いは状況(チーム)に合わない人間は選ばない。戦場に立つリーダーとして時には”冷酷”に取捨選択する能力を測るために、ドラフト式でチーム分けが行われたと推測できる。選ばれる側の隊員も、自らが戦力的にどこに位置するかを理解する効果もある。

物語的に意味を持ちつつも、読者にエンターテインメントを提供した選抜試験のチーム分けはまさに一挙両得の展開だった。他作品でもチームをシャッフルする展開はあるが、単行本の裏カバーまで人物描写を書き、本の隅々まで設定を入れ込んだワールドトリガーだからこそ、ドラフト結果だけ推察が捗り、盛り上がれたのだと思う。

 

このチーム分けで果たしてこれからどうなるのか。次の24巻を待つしかない。2021年秋発売予定なので、先の気になるこの状態で半年近く耐えねばならないのだが、このp196-p197があれば乗り切れる気がする。いややっぱ待ちきれねぇよ